ring ring ring
薬指の束縛
 それは、由紀のひと言から始まった。
 「美波、式はいつごろの予定なの?」
 土曜日の夕方、人でごった返す原宿の歩道を眺めながら、わたしたちはパンケーキを頬張っていた。寒い中を1時間以上も並んだ疲れを、山と盛られたホイップクリームがやさしく包んで溶かしてくれる。
 「式?全然考えてなかった」
 そもそも、結婚に関する話自体、プロポーズ以来ほとんどしていない。
 「やらないわけじゃないんでしょ」
 「絶対やる!ウェディングドレス着たいもん」
 「だったら話を進めないと。式場の予約ひとつ取るだけでも大変なんだよ」
 それは、由紀のときを見ていたから知っているつもりだった。あちらこちらの式場を回って、それぞれのプランナーと話をして、ココと思った式場に絞り、招待客の人数に合わせた規模を考え、だいたいの予算を見積もり、日柄を調べてようやく予約にこぎつける。装飾や料理といった詳細は、それから始まるというのだから、気が遠くなるような話だ。つくづく、結婚というのは一大イベントなのだと思い知らされる。
 「一応、先週のバレンタインのときに聞いてみたんだけどね。式のとき、ここのチョコレートをゲストに配りたいから、溶けないように秋くらいがいいかなあって」
 「そしたら?」
 「そしたら、いいねえって。それだけ。最近忙しいみたいで、あんまり構ってくれないんだよね。今日も休日出勤だし」
 「えー大丈夫?なんか心配だなあ」
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