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 「ロイヤルミルクティーとアップルティーでございます」
 秋の終わりに開催された、社員親睦会という名の一泊旅行先での出来事で盛り上がったとき、恭しく運ばれてきた紅茶が、わたしたちの前に静かに置かれた。
 真っ白なクロスで覆われたテーブルに、華やかな模様のティーカップが彩りを添える。わたしはロイヤルミルクティーに砂糖を落とし、美しく磨かれたシルバーのティースプーンでかき混ぜた。スプーンとカップの触れ合う上品な音と、会話を邪魔しない静かなクラシックのBGMに、優雅な気持ちになった。
 クラシックなんてふだんは聴かないのに、こういうときには自然と酔いしれることができる。音楽の力は偉大だなと思っていると、
 「初デートのときもロイヤルミルクティーを飲んでいたよね」
 向かい合う忠信さんが目を細め、彼が注文したアップルティーのカップから、甘く爽やかな香りが漂った。ここがもっとカジュアルなカフェだったら、少し飲ませてとおねだりをするところだけれど、今日はやめておいたほうがよさそうだ。
 「よく覚えてるわね。わたし、これが好きなの。とくにここみたいないいお店で飲むと、家ではとても作れないくらいおいしいのよ」
 ロイヤルミルクティーのカップに口をつけた瞬間、紅茶の香りとミルクの甘いコクが広がり、わたしは思わずため息を漏らした。
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