ring ring ring
 途中、何度か着信があったが、由紀の話をきちんと聞きたくてずっと無視していた。由紀と別れてからスマホを見ると、着信は忠信さんと高林くんだった。わたしはまず、忠信さんに電話をかけた。
 「もしもし、遅くなってごめんね。今由紀と別れたとこ」
 『ああ、由紀ちゃん、大丈夫だった?』
 「うん、何かあったってわけでもないけど、なんていうか、日頃の鬱憤が溜まってたみたいで……」
 電話の向こうで、小さく息を吐く音が聞こえた。
 『古田のヤツ、何やってんだか。今度おれからも話してみるよ』
 「う、うん、そうして」
 妙な方向の団結力が生まれなければいいけど……。
 一方の高林くんはというと、
 『どうしよう、海野さん。おれ、ほんと調子に乗って余計なことばっか言っちゃって』
 電話のコールが鳴るなり、半泣きの声が耳に飛び込んできた。お調子者の彼は、貴重なムードメーカーでもあるけれど、ときに暴走が過ぎることがある。でも今回は彼の勘違いだから、
 「高林くんのせいじゃないよ。仕事と家事の両立で疲れてたみたい。わたしが愚痴を聞いておいたから、もう大丈夫」
 と言うと、彼は電話口で何度も、
 『ありがとうございます、ほんとすいません』
 と繰り返した。きっと頭をぺこぺこ下げている彼の姿を想像して、わたしは少し笑った。
 
 
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