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薬指の苦悩
 月曜日の仕事帰り、わたしは、会社の近くのバーのカウンターにひとり座り、薬指を眺めていた。
 薄暗くムーディな照明の中でも、ダイヤモンドは絶対的存在感を放っている。わたしよりも輝けるものなどないという自信に満ちて、神々しささえ感じるほどだった。
 束縛が、男の本能。
 もし由紀の言うとおりだとしたら、わたしはこれをはめたときから、忠信さんの支配下に置かれたということになるのだろうか。
 「はあ〜……」
 昨夜の一件が、頭から離れない。順調な結婚生活を送っているとばかり思っていた由紀の苦悩は、日々のほんの小さな苛立ちが積もり積もって生まれたものだった。他人と家族になって生活を共にするのだから、ある程度の変化は覚悟のうえだけれど、お互いにうまく解消し合っていかないと、いつか取り返しのつかない事態に陥りかねない。
 「忠信さんと、上手にやれるかな……」
 考えれば考えるほど不安は募り、オーダーした好物のチチはただ甘いだけで、ココナッツの香りを楽しむ余裕すら失ってしまった。
 「隣、いいですか」
 突然頭上に降ってきた男性の声にも、
 「……どうぞ」
 誰なのか確かめもせずに答えた。
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