ring ring ring
 「どうしたんですか、指輪ばっかり見ちゃって」
 その言葉にようやく現実に戻ったわたしは、隣に座った男性が高林くんであることを知った。
 「高林くん!何してるの、こんなところで」
 驚くわたしを、高林くんは笑った。
 「何って、酒でも飲もうと思って来たんですよ。バーってそういう場所でしょ」
 「あ……まあ、そう、だね」
 高林くんはわたしのグラスを見て、
 「ぼくもチチを」
 マスターにオーダーした。
 「見ただけでよくわかったわね」
 「ココナッツがふんわり匂ってますから。それに、おれも好きなんですよ、チチ。あ、カクテルのほうですよ」
 「…………」
 「ちょ、放置しないでくださいよー」
 場所柄、控えめに笑う高林くんは、いつもの元気なイメージとは違って、少しだけ大人びて見えた。
 「忠信さ……岡田さんはキライなのよ」
 「何がですか」
 「カクテル。彼曰く、いろんな味をごちゃまぜにしただけの、味がわからないヤツが飲む酒なんだって。だから彼と飲んだり、彼のことを考えながら飲むカクテルは味がわかんなくなっちゃった」
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