ring ring ring
 「それじゃ、乾杯しましょう」
 「何に?」
 「そうですね……海野さんの未来が幸せであることを願って」
 「……ありがと」
 グラスを合わせると、キーンと鈴のようなきれいな音が鳴った。
 あらためてグラスに口をつけると、さっきまでと同じ飲み物とは思えないほどココナッツの香りが広がった。
 チチが好きな人と、チチを飲む。
 たったそれだけで、こんなにも味が変わるものなのか。
 「おいしい」
 「幸せそうですねえ」
 高林くんが愉快そうにわたしを見る。前にもこんな会話をしたことがあったっけ。そうだ、プロポーズの夜、忠信さんに言われたのだった。
 『きみは何でもおいしくていいな』
 でも、あなたに出会う前は、もっともっと何でもおいしいと思っていたのよ。なんて、口が裂けても言えないけれど。
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