ring ring ring
 「由紀さん、頭が痛いとかないですか」
 「今のところ大丈夫そう。ごめんね、はるかちゃんにも迷惑かけちゃって」
 「そんな、全然。たいしたことなさそうで、ほんとよかったです」
 由紀の緊急事態に、はるかちゃんはすっかり取り乱し、わたしが荷物を整理したり古田さんに電話をかけている間、半泣きでずっと由紀に付き添っていた。
 「わたしが誘ったりしたから、こんなことになっちゃって」
 妙な責任を感じたはるかちゃんが、いよいよ涙をこぼしそうになったとき、休憩所の入口から、ひょっこりと古田さんが顔を見せた。飲んでいたというだけあって、顔がほんのり赤く染まっている。
 「海野さん、本村さんも。ごめん、由紀がとんだご迷惑を」
 「いえいえ。ほら由紀、来てくれたよ……って、え、何で?」
 畳にあがる古田さんの後ろから、なぜか忠信さんが入って来た。彼も古田さんと同じように、顔を赤くしている。
 「一緒に飲んでたんだ。連絡うけて驚いたよ。由紀ちゃん大丈夫?」
 岡田さんには言わないで、と言われたばかりだというのに、何というタイミングの悪さだろう。おそるおそる由紀を見ると、彼女は観念したような目でわたしと視線を合わせ、微かに笑った。けれど、忠信さんは大方の予想を裏切り、毒を吐くことなく、由紀の心配に終始している。こんなときまで前回のような失言をしやしないかとハラハラしたけれど、どうやら杞憂に終わったようで安心した。
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