ring ring ring
 由紀があまり水分を摂っていないことに気付いていたのに、のぼせたような肌の色のままサウナに行かせてしまったことを、わたしは悔いた。いくら体力に自信があっても、それなりに年齢を重ねているということも忘れてはならない。無茶をしても何とかなった、バスケットボールをやっていた頃とは、何もかも違うのだ。
 手首からロッカーキーをはずされ、洋服を着せられた由紀は、そうこうしている間に意識を取り戻したため、とりあえず休憩所の畳に寝かされた。具合がよくならなければ、近くの救急病院へ連れて行くと温泉施設のスタッフに言われたが、由紀は、たいしたことないと繰り返した。
 ロッカーから由紀の荷物を取り出すとき、わたしは、バッグのすぐ横に、結婚指輪が置かれていることに気付いた。温泉で変色するのを防ぐため、外したのだろう。わたしはそれを、なくさないように、自分の洋服のポケットに入れた。
 「わたし古田さんの電話番号知らないから、由紀のスマホ、勝手に借りちゃったよ」
 言いながら由紀の枕元に座ると、
 「……連絡なんてしなくてよかったのに」
 由紀はふくれっ面をした。
 「そんなこと言わないで。古田さん、この近くで飲んでたみたいで、すぐタクシー捕まえて来るって言ってたよ」
 由紀は、怒ったのか照れたのか、ごろりと寝返りを打って、わたしに背を向けてしまった。
 「……美波、このこと、岡田さんには言わないでね。また旦那ほったらかして夜中に温泉なんて行く鬼嫁だなんて言われたくないから」
 「由紀〜……」
 さすがの忠信さんも、そこまでは言わないと思うけれど、絶対に言わないとは断言できなかった。それを心配する由紀の気持ちはじゅうぶんに理解できるから、わたしは誰にも言わないと約束した。
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