偽装結婚の行方
「決まってるじゃないですか。尚美と結婚します」


俺も負けじと渡辺部長を真っ直ぐに見返し、即答した。もちろん一片の迷いもなく。


「うむ。念のため聞くが、君は心から尚美を愛しているのか?」

「もちろんです」

「希は?」

「希ちゃんも好きです。可愛いと思ってます」

「自分の子ではないんだぞ?」

「そ、それはそうですが、大丈夫です」

「なぜそう言える?」

「この一ヶ月で自信が持てたからです」


そうなのだ。俺は俺なりに自問自答していた。自分の子ではない希ちゃんを愛せるだろうかと。その結果、大丈夫だと俺は思ったんだ。


「この一ヶ月?」


あ、しまった……


「それはその……こ、子守です。毎日のように希ちゃんの子守をしていました。本当です」


うわっ。脇の下から汗が……


「嘘くさいが、まあいいだろう。だが考えてみてほしい。近い将来、きっと君達には子どもが出来るはずだ。正真正銘、君の血を分けた子どもが。君はその子どもと希を、分け隔てなく愛せるのか?」

「そ、それは、たぶん大丈夫かと……」


う、きっぱり大丈夫って言えなかった。


「君は正直なんだな」

「すみません」

「いや、いいんだ。私も酷な質問をしたと思う。だが、これだけは聞いてほしい。希に惨めな思いだけはさせないでやってほしい。あの子には幸せになってほしいんだ。頼む、この通りだ」

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