偽装結婚の行方
俺の会社はある中堅の新聞社だ。と言っても俺の所属はIT部門で、直接新聞制作にはタッチしておらず、言わば裏方だ。ネットワークやサーバーの死活監視とか、開発ベンダーとの連絡窓口なんかをしている。


今週はコンソールの当番じゃないから時間に縛られず、しかも特に抱えている仕事が無いから余裕がある。というか、ハッキリ暇だ。周りの目があるから、仕事をする“振り”はするけども。


ぼーっと端末のディスプレイに目をやっていると、昨日の事を思い出す。特に尚美の事を……

俺の部屋で並んで腰掛け、彼女の事情を聞いたっけ。26歳という実年齢よりも、幾分若く見える尚美。もし彼女が一人でいたなら、到底一児の母には見えないと思う。

意外に表情が豊かで、黒目がちの大きな目を、パチパチさせてたっけ。あんな可愛いくて純情そうな子が妊娠、そして出産かあ……。全然ピンと来ねえや。


相手はどんな男なんだろう。なんか、すっげえ羨ましいんだけど……

ん?

そいつは顔が俺と似てるって事だよな?
という事は、もしかすると俺にも可能性があったんだろうか……

阿部から聞かされた時に、彼女を紹介してもらえば良かったのでは?

くそー。と悔しがってみても、今更だよなあ……

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