偽装結婚の行方
「う、うっかりさ。その人、尚美“さん”の友達じゃないのか?」

「違うって……。総務部長だよ。おまえ、知らねえの?」

「ん……知らないと思う」

「へえー、珍しい奴だな? 渡辺さんは当時課長でさ、河内尚美と席は隣だったし、結構仲が良かったらしいんだよ。その渡辺さんでさえ、彼女から辞表を受け取った時はびっくりしたらしいぜ。しかも理由を聞いても『一身上の都合です』の一点張だったらしい」


その話はどうでもいいが、“仲が良かった”という部分だけ俺は気になった。


「そんなに仲が良かったのか?」

「は? 誰が?」

「だから、尚美さんとその渡辺って男さ……」

「ああ、そうだな。って言っても誤解すんなよ? 渡辺さんは既婚者だから」

「既婚者!?」


つい俺は大声を出してしまった。既婚者って事は……もしかして、もしかするか?


「なに大声出してんだよ?」

「わ、悪い。もしかしてその渡辺さんって、顔が俺に似てないか?」


うー、なんか、ドキドキしてきたぜ……


「なんだよ、やっぱりおまえも知ってんだろ?」

「え? 知らないよ。いや、知ってるかな。そんな事はどっちでもいいだろ? それよか、俺に似てんのかよ? そいつは……」


俺は、それこそ固唾を飲んで阿部の返答を待った。

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