偽装結婚の行方
それから数日が過ぎた。

尚美達との生活は順調ではあるが、少しだけ問題が起きて来た。と言っても、俺の心の中だけの問題なのだが。


阿部の奴、余計な事を言いやがって……


今、俺達は晩飯を食い終わり、尚美は希ちゃんを寝かし付けている。まだ寝るような時刻でもなく、俺は食後のお茶をすすりながら、テレビのニュース番組を見るともなく眺めている。頭の中では、週明け早々に会社でした、阿部との会話を思い出しながら……


『なあ、アパートってそう広くはないんだろ?』

『ああ。広いどころか、むしろ狭いな』

『だよな? だとすると、時には見ちゃったりするんじゃね?』

『何をだよ?』

『尚美ちゃんの裸だよ』

『ば、バカ言ってんじゃねえよ! そんな訳ねえだろ?』

『そうか? でもよ、下着姿ぐらいは見たりするんじゃね?』

『それはまあ、多少はな』


実はそうなのだ。尚美は俺に対して無防備って言うか信頼してるのか、その辺はよく分からないが、俺がいる所で平気で、かどうかは知らないが、着替えたりする事がある。

そんな時、俺はもちろん目を逸らしてなるべく見ないようにするのだが、そうは言ってもチラッと見えてしまう事はあるわけで、内心ドキドキした事が何度もある。


『やっぱりそうだよな? チクショー、羨ましいぜ!』


と言って阿部は俺の背中を思いっきり叩きやがった。そしてその後、阿部はとんでもない事を言ったんだ。

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