偽装結婚の行方
次の日、会社から帰った俺は、飯も食わずに荷物を車に押し込み、尚美と希ちゃんに別れを告げた。


「幸せにな?」

「うん。涼もね?」


尚美は目に涙をいっぱい溜め、俺も堪えきれずにとうとう涙を零してしまった。


尚美は俺の親に一緒に謝ると言ったが、それは断わった。怒られるのは俺一人で十分だから。代わりに尚美の両親には、尚美だけで謝罪と説明をする事にした。


実家、いや、もう単に“家”だな、に向かって車を走らせながら、『今までのは全部嘘でした』と俺が言った時の、家族の反応を想像してみた。


さぞやみんな怒るだろうな。当然だし、それは最初から覚悟していた事だ。

がっかりもするだろうな。特にお袋さんが……

お袋さんは、尚美も希ちゃんもかなり気に入ってるからな。特に希ちゃんは、自分の孫だと思ってるから当然だよな。可愛くて可愛くてしょうがないって感じだもんなあ。

あ、その意味では親父さんも近いものがあるな。姉貴だって、何気に義理の妹と姪を気に掛けてる風だしな……


次の交差点を右折すれば家の方向だったのだが、俺は直進してしまった。家族の反応を想像したら、恐ろしくて家に帰れなくなってしまったのだ。

他に行くあてもなく、仕方なく俺は真琴のアパートへ向かって車を走らせた。

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