偽りの愛は深緑に染まる

 まずい。

 いやでも、本当にそうなのだろうか?

 隣に座っている男の顔と髪型は見えない。そもそもスマホのケースなんて同じものを持っている人物は山ほどいるだろう。

 焦った自分を笑いたくなる。

 しかし。だらんと組まれた長い脚と、座っているだけでどこか絵になる雰囲気のあるところが、どうしても気になる。

 佐渡山崇。

 梨沙の同僚で、凄まじい女子人気を誇る男。

 正直、苦手だった。佐渡山自体は嫌いでも何でもないが、目立つ男子が苦手なのだ。

 その容姿からは意外に思われるが、彼女はいない。その代わり言い寄ってきた女を片っ端から喰っているそうだ。

 佐渡山、サド山。あまり関わりがないからよく知らないが、人をいたぶるのが好きそうな気がするので、いつからか梨沙の頭の中ではサド山と呼ばれるようになっていた。

 もし、本当にサド山だったら……。
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