極上エリートの甘美な溺愛


『一階のショールームに降りて来い』

慎からのメールを受け取った将平は、沈みきった気持ちを抱えたまま席を立った。

発売直後の『Rin』に関するお客様からのアンケートに目を通し、その評判の良さにほっとしながらも、玲華のことが気になって、なかなかそのことだけを喜べない。

玲華が求めていた『エンジン音が静かな車内』に関してのお客様の感想は好評で、車内という空間で過ごす時間を大切にしている人が多いと改めて気づく。

そして、『Rin』という名前の響きが好きだと書き添えてあるものも多く、将平はその由来を考え、気持ちが温かくなった。

新商品の名前を決めるためにはあらゆる会議を通し、最終的には取締役会での承認が必要で、最初に将平がその名前を提案してから決まるまでにもかなりの時間を要した。

『Rin』には、サブネームとして『凛』という漢字を使っている。

カタログの片隅に、その漢字がいくつか使用されていて、もともとは漢字表記の『凛』という名前で発売しようという案が先行していた。

けれど、ターゲットを30歳前後の男女に絞ったせいか、英字表記の方がいいだろうということで『Rin』が使われることになった。

『凛々しい』という思いを込めたその名前は、将平が初めて玲華を見た時の印象からきている。

どちらかといえばその印象は薄く、人の影に隠れながらひっそりと生きている女の子。

すっと背筋を伸ばし、視線を揺らすことなく口元に笑顔を浮かべている女の子。

目立つわけではないけれど、その立ち姿は凛々しくて、将平はしばらくの間、玲華の姿を目で追っていた。

周囲の女の子たちと何が違うのかその時にはよくわからなかったが、将平にとっての玲華は、当時から特別な存在だった。

『凛々しい』玲華を思い出しながら設計に携わった『Rin』。

いつかそのことを玲華に話せる日が来るだろうかと思いながら、エレベーターを降りた。

将平が1階のショールームに行くと、営業先から戻ってきたらしい慎が片手をあげて笑っていた。

「何だよ?今から打ち合わせが入ってるんだけど」

将平は不機嫌な声を隠そうともせず、慎の向かいの席に腰掛けた。


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