極上エリートの甘美な溺愛
「飲みすぎるなって言っただろ。明日も仕事だぞ」

眉を寄せて玲華を見下ろす篠田は彼女の頭を軽く小突き、ため息を吐いた。

とはいっても、玲華がお酒に強いことを良く知っているせいか苦笑も混じっている。

普段仕事のあと一緒に飲みに行く機会も多く、ビールをグラスで一気に飲むくらい、彼女にはどうってことないこともわかっている。

それでも玲華をからかうように言葉を続けた。

「葉山が酒に強いってのはわかってるけど、今日は俺が送って帰るわけじゃないんだからほどほどにしろよ」

「はーい。いつものように篠田さんの車をあてにしてないんで安心してください。それに、明日が仕事だってちゃんとわかってます。大丈夫です……それより」

玲華は篠田から視線を外すと、何気なさを装いながら斜め向かいの沙耶香を見た。

沙耶香は玲華と篠田の会話に笑顔を作りながらもどこかぎこちない様子で目の前のお料理を食べている。

これまで意識していなかったとはいえ、沙耶香と篠田との間に何かあるに違いないと思った途端、沙耶香の様子が不自然に思えて仕方がない。

「私よりも沙耶香のほうが、お酒に弱くて心配なんですけど」

含みをもたせた玲華の言葉に、一瞬篠田の体が揺れたと視界の隅で感じ、沙耶香の表情を探った。

脳裏に浮かぶのは、篠田の車の助手席に落ちていた沙耶香のピアスだ。

沙耶香と篠田との間には何か特別な関係があるのではないかと考えてもおかしくはない状況。

すると沙耶香は、篠田と玲華を交互に見遣りながら笑い声をあげた。

「篠田さん、どうしたんですか?仕事以外でも玲華と一緒にいたいんですか?」

からかうような声に、玲華は『は?』と戸惑いの視線を向ける。

沙耶香の屈託ないその笑顔は、篠田との関係を隠そうとしているのか、それとも篠田との関係は玲華の思いすごしなのか。

玲華の確信が揺らいだ。


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