極上エリートの甘美な溺愛

「葉山とは飽きるほど一緒にいるから、とりあえず今日はもういいよ」

玲華の頭上から篠田の呆れた声が響く。

「これだよ。車に忘れているのに気付いたからわざわざ戻ってきてやったんだよ」
 

篠田は、大きくため息を吐きながら、スマホを玲華に渡した。

玲華は慌ててポケットを探るが、その時になってようやくそこにはないことに気付く。

「すみません。全く気付いてませんでした」

「だろうと思ったよ。この後みんなで連絡先の交換する時にいるだろうと思って持ってきたんだよ」

篠田は玲華の頭をくしゃりと撫で、のどの奥を震わせた。

「まあ、葉山がどこかぬけてるってのは良く知ってるけどな」

「……すみません」

玲華は立ち上がって篠田に頭を下げた。

一緒に仕事をする機会が多いせいで、どこか抜けていて脇が甘い玲華の素顔は既に知られている。

仕事に真面目に向き合えば向き合うほど、どこかで失敗をしては篠田がフォローしてくれる。

入社以来、篠田から設計の担当として指名される機会が多いのは、玲華の仕事ぶりが評価されて、というよりも玲華のことをよく知る篠田にしてみれば、他の営業担当と玲華が一緒に仕事をすることに不安を感じているからだろうと、玲華は考えている。

ありがたいとはいえ、いつまでも篠田に頼ってばかりではいけないと、情けなくもある。

「えっと、このお礼はいつものように食堂のA定食でお願いします」

「了解。葉山のお礼のA定食、今月二度目だな。ま、楽しみにしてるよ」

「いつも、すみません……」

照れ笑いをする玲華と篠田との軽快なやり取りを見ていた将平の顔からは笑顔が消え、厳しい視線が篠田に向けられていた。

そして、突然目の前に現れた篠田と玲華との関係が気になって仕方がないのか、二人が交わしあう視線の親密さから目が離せずにいた。

「じゃ、飲みすぎるなよ」

「あ、ありがとうございました」

そう言って帰ろうとする篠田に玲華は慌ててお礼を言いながらも、沙耶香のことが気になり、視線を向けた。




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