月夜のメティエ


 クラスには、必ずリーダー格の生徒が居る。男でも女でも。

「ねぇねぇ、朱理ちゃんは? 好きな人っている?」

 そう小声で聞いてきたのは、町田 美帆。最近、よくお昼ご飯に誘われる。きっかけは少し前に、英語の問題を教えてあげたからだった。

「……すきなひと……」

 そう繰り返すと、キラキラした目はあたしをじっと見ていた。

「やーあたし美帆ちゃんとちょっとタイプ違うし、なんかそういうの縁遠くて」

「えーそうなのぉ?」

 キラキラした目はあたしだけでなく、数個ある。美帆ちゃんの仲間とか。いつも一緒にお昼食べてるマーコとか。
 美帆ちゃんはボブの髪にちょっとした可愛いデザインのピンを付けて、おしゃれしてる。勿論、アクセサリーの類と判断されるだろうから、校則違反だ。先生に指摘されれば、速攻外すんだろうけど。あたしは長い髪を洗いっぱなしにしてるだけだ。(結ぶゴムも忘れた。)
 えーそうなのぉ? とか言われても。こういうの一番苦手。みんな楽しそうだけど。

「なんかそう言えば、ちょっと前に朱理、音楽室からピアノ聞こえるとか言ってなかった?」

 答えに困ってるあたしへの助け船なのかなんなのか、マーコが微妙な進路変更の話題を振った。なんていうか、余計なこと言うな。

「あー……うん。あれねー」

「えーなにそれなにそれ」

 ほら。余計なことを……。食いついて来ちゃったじゃないか!

「ピアノの練習してた人だった。隣のクラスの」

「ベートーベンの肖像画が弾いてたんじゃなかったの?」

 マーコがそう言った。

「違ったわー。マーコそれ怖いから」

 本当にそうだったらあたしはここに居ないかもしれない。怖い。

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