月夜のメティエ

「今日も来ないのかな……」

 昨日も一昨日も、居なかった。その前に会ったのはいつだったっけ。先週?いやもっと前かも。
 隣のクラスなんだもの、行ってみれば会えるのに。行かないけど。

 頬杖をついた左手を外して、下の方を見た時だった。生徒が1人……2人か。女子と男子だ。女子生徒はこっちを向いていて、男子は背中しか見えない。よく見ると女子は美帆ちゃんだった。どうしたんだろう。一緒に居るのは彼氏だろうか。すぐそう結びつけちゃうけど、彼氏が居るとは言っていなかったか。

 美帆ちゃんは男子生徒の右手を取った。わぁ、手繋いでる……繋いでるというか、美帆ちゃんが男子を引っ張って行ってるように見えるけど。手を引いて、どこかへ行くような様子だった。歩いて行く途中、男子生徒の横顔が見えた。見間違うわけがない。そこに居たのは、横顔は、奏真だった。


 それからすぐだ。奏真が転校していったと、噂で聞いたのは。

 あの冬の日、美帆ちゃんと居たこと。2人は知り合いなの? 転校すること、教えてくれれば良かったのに。

 それを全て飲み込んだ。聞けないまま。

 恐ろしいね、思い出って。それを抱えたまま大人になって、奏真の思い出のまわりは、防弾ガラスみたいになってる。中身は見えるけど、外からも内側からも、破られない透明なガラスで覆われているんだ。


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