レンタル彼氏【完全版】
「……どうしたの?」


何か、あったのかと俺がそう尋ねると、美佳はぴたっと止まってから真っ直ぐ俺を見つめた。

その瞳に全てを見透かされているような気がしてドキっとする。


それからゆっくりと言葉を紡いだ。



「…………本当に…父親が母親を刺したの?」



そんな質問。想像も…してなかった。
思ってもいなかった質問にドクンと心臓が波打つ。

あまりにも波打つから、心臓の鼓動が美佳に聞こえるんじゃないか。

そう心配した俺は、出す声がつい大きくなってしまった。



「な、何言いだすんだよ、美佳。
当たり前じゃん」



刑事の前では一切動揺しなかったのに。
美佳の前じゃこうも脆い。



「…………警察はね、伊織が加害者じゃないかって言ってたの」


「…え?」


…俺が?

バレてたの…?



「包丁から父親の指紋出てないしね」


「でも、自分の家だし、俺も包丁ぐらいは触るよ」


「…もし、父親が指紋を拭き取ったなら伊織のも、母親のもないはずなんだよ」


「…っっ」


ぐっと言葉に詰まる。

だって。




あの日、父親は包丁に擦りもしていないのだから当然っちゃあ当然の話だ。
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