『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——




世の中は多数派にやさしくできている。

たとえば、教室の窓を思い出してほしい。
かならず黒板に向かって左側に窓があるはずだ。

右側から日が差すと、右手の手元が陰になって字が見づらいからだ。

日本人には右利きが多いから、こうして左利きの都合は省みられない。

左利きの平均寿命は、右利きのそれにくらべて短いという統計もある。


多数派に属していれば、ストレスが少ない。きっと長生きもしやすいだろう。


向かいの窓からやわらかく降りそそぐ夕陽をあびて、そんなことを考えるでもなく思う。


図書館という場所だからして、こうして日があたるのは閲覧スペースで、書架は奥まった場所に配されている。


すっと、本を持つ手元に影が落ちた。視線を上げると、西森がいた。



「『死刑全書』ですね」

開いた本に目を落として、つぶやく。一瞥しただけでそれと分かる者は少ないだろうが、西森なら不思議はない。
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