『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——
準備は大変だったかと、僕は訊いてみた。


「すごく、すごぉく大変だった」

彼女はかすかに笑って、うなづいた。
はじめて目にする、伊藤女史の笑顔だった。分かってもらえることが、嬉しいのだろうか。

右手の中指に、小さなペンだこが見てとれた。永岡先生の筆跡を習得するのに、どれだけの時間をついやしたのだろう。

あっさり癖字を真似てみせた、西森の白い手がそこに重なる。


そこまですべてを分かっていながら、西森はなぜ・・・・



「すべての時間と労力とお金をそそぎこんでいたのに・・・あの女の子、西森さんがいつもあなたと一緒にいたから」

守護天使のように、とつぶやく。


「彼女は昨夜、わたしのうちにあらわれたの。わたしの望みを半分叶えてくれると。
自分の首に時限爆弾をはめてほしいと言ったの。終さんの首はあげられませんが、と」
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