縛鎖−bakusa−
水谷徹が彼女の背後に回る。
そして、その右肩に半透明な手を置いた。
「山本先生、水谷徹が右肩に手を掛けていますよ?」
「ヒイッ!」
慌てて右肩を払う彼女。
そんな事をしても意味はないのに。
薄ら笑う水谷徹は両手を彼女の首に掛けた。
絞めるようにゆっくりと、両手の輪を縮めて行く…
「首…苦しくないですか?絞められていますけど」
「えっ?…あ…うっ…」
その手に実体はない。
実際に首を絞める事は出来ない。
それでも彼女は苦しみ出した。
それは私の言葉に想像してしまったから。
かつての教え子に背後から首を絞められる姿を、頭に描き出してしまったから。
彼女は首を両手で押さえ酸素を求めて苦しがった。
離そうとしなかったショルダーバックがドサリと重たい音を立て床に落ちた。
「水谷徹は怨念が強い分、霊障も強いと思います。
私でさえ、少し触れられただけで首筋に痣が出来ましたから。
山本先生の首、赤くなって来ましたね。
きっと痣になります。
水谷徹の指の跡がくっきりと浮かぶ痣が。
その前に呼吸の方が先に止まるのかも知れないけど」