狂妄のアイリス

狂妄

 冬服と書かれた段ボール箱に、少女の左肘が当たる。

 押し入れの下段にうずくまり、揺れる襖を両手で押さえていた。

 内側からもつっかえ棒がされ、それでも少女は血がにじんだ手で襖を押さえる。

 少女の手は、火傷でただれていた。

 丸く縮こまった膝頭には、切り傷がある。

 少女が逃げ込んだ押し入れを開けようと、女ががなり襖を揺らす。

 歯の根が合わず、打ち鳴らされた。

 それでも手はふるえずに、少女はつっかえ棒と共に襖を死守する。

 そして時折、自分の体を引っ掻いた。

 傷は、露出した場所だけではなかった。

 袖の中の切り傷。

 ハーフパンツの中のみみず腫れ。

 腹の青あざ。

 満身創痍の体を、少女は自らの爪で更に傷つける。

 体の傷のどれが女によってつけられた物で、どれが自分でつけた傷なのか少女にはわからなかった。

 きっと、女にも他の誰にも見分けることは出来ない。

 だから、少女は自らの体を自らの手で傷つけていた。
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