狂妄のアイリス
第八章「かこ」

「祐二くん、どうしたの?」


 少女に手を引かれて青年が病室を出て行った。

それを見送った男に、傍にいた女が不思議そうな顔をする。


「本当に、見えてないの?」


 女の顔は、部屋を出て行った少女にも青年にも面影があった。


「なにが?」


 女は年に似つかわしくない、幼さのある表情で首を傾げる。


「息子と、娘」

「なにいってるの、私に娘はいないでしょ。子どもは、日向一人だけよ」


 女は声に出して笑い、男の言葉を一蹴する。


「裕二くんは、女の子が欲しいの?」

「そうですね……男の子でも女の子でも、自分の手元に置いてちゃんと育てたかったです」

「育メン宣言?」


 暗い表情の男とは対照的に、女は軽やかに笑う。

男が過去形で語ったことにも、気づいていない。
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