狂妄のアイリス
最終章「きょうぼう」

少女

 それは不思議な光景だった。

 私は私を見ていた。

 日向さんが私の首を絞めているのを、見下ろしている。

 自分の首が絞められているというのに、ちっとも苦しくない。

 妙に頭は冷静で、私と話している時の樹ポジションなのかなとか考えてる。

 あそこにいる私に、ここにいる私は見えているんだろうか。

 私がここにいるなら、今首を絞められているのは誰?

 朱音?

 朱音のなかにいる、他の人格?

 もしかして、樹?

 私が見ている私は、首を絞めている日向さんに抵抗している。

 日向さんの手を引っ掻いて、胸を叩いて、なんとか引き離そうとする。

 でも、高校生の日向さんの力に、小学生の朱音の力で敵うはずがなかった。

 唇が蒼紫色になって、私の顔色が青ざめていく。

 抵抗する手の力も抜けて、床に落ちる。

 私の首を絞める日向さんの表情は、ここからは見えなかった。
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