狂妄のアイリス
「蛍、もういいだろ」

 前触れもなく、背後から湧いて出た手が蛇口を閉める。

 樹の手じゃない、鏡に移るその人は私のおじさん。


「濡れると困る物もあるから」


 そう言っておじさんは、私の血で淡く染まった水に手を入れる。

 排水溝の栓が抜かれると、ぐるぐると水が渦を巻く。

 私の体の一部だった物が、下水へと流れていった。


「ごめんなさい……」


 鏡の中のおじさんに謝罪すると、濡れてない方の手が私の頭に触れる。

 いつの間にか樹は消えていた。


「おいで」


 おじさんに肩を抱かれて、私はいつものようにリビングに連れて行かれる。

 そこにはもう、救急セットが用意されていた。


「ここだけか?」

「うん……」


 ソファーに座らされ、ひざまずいたおじさんに両手を差し出す。
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