狂妄のアイリス
 悩んだのは一瞬だった。

 たかがこれしきのことを怖がって、遠回りするのも自意識過剰なように思えた。

 女は暗闇に向かって歩き出す。

 一瞬の迷いの後の一瞬後に、激しい後悔をすることを知らず。


「っ――!」


 公園の暗がりの中から、黒い手が伸びてくる。

 その手に女が上げた悲鳴は、その手で押さえ込まれた。

 口を覆われ、体をつかまれ、公園の中に引きずり込まれる。

 突然のことに恐怖でパニックを起こした女はロクな抵抗も出来ずに、地面に倒された。

 ミュールが抜げ、顔に土がつく。

 公園の中は、より暗い。

 木々の隙間から入る街灯が、より深い陰を生む。

 起き上がった女が見上げた人影こそが、真の闇に見える。

 再び悲鳴を上げようとすると、拳が振り下ろされた。

 勢いで再び地面に倒れ込み、石で後頭部を強打する。
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