双世のレクイエム
どれくらいそうしていたのか。
気づくとワタルは眠ってしまっていたようで、揺り起こされると既に明け方となっていた。
起こしてくれたのは蒼髪の方らしく、「おはようさん」と言って微笑んだ。
ワタルも挨拶を返そうと思ったが、そういえば喋れないのだと開いた口を閉じるしかない。
その様子を見ていた紅髪が馬鹿にするように溜め息をつく。
「何してんだ。もう喋れるだろう?」
「え、……あ」
掠れた声だったが、それでも音として出せたことには安堵した。
安心して顔がゆるんだワタルを見た蒼髪は、ふっと微笑むとワタルの背に手を添えて起き上がらせた。
「さ、ここいらでなんぼしよっても仕方あらへん。わての名前は【療杏】(りゃおあん)。よろしくどす」
「え?あ、はい…。よ、ろしく」
突然の自己紹介に戸惑うワタルだったが、それに構うことなく今度は紅髪が自己紹介を始める。
「俺の名前は【豪蓮】(くおれん)。お前に興味が湧いた。これから俺様のためだけに生きてもらうぞ。その命、いつか俺が頂戴する」
「はいよろしく…って、えええっ?!」
いきなりの奪命宣言にワタルはあんぐりと口を開け、空いっぱいに響き渡るほどの大声をあげた。
命を頂戴?誰の?…俺の?
冗談じゃない!
「む、無理に決まっ、うえほげほごほっ」
「あらあら、ようやっと喋れるようなったさかい。せかして口利こうもんなら喉に負担かかってもうて、まぁた喋れんようなりますえ」
「ず、ずびまぜ…げほ」
咳き込むワタルの背中を優しくさすってくれる蒼髪の人物・【療杏】(りゃおあん)に謝罪をし、もう一度紅髪の人物・【豪蓮】(くおれん)に視線を移す。
奪命宣言をかましたキャツは、我知らぬという風にツンと顔をそむけていた。
「(こ、こいつっ…)」
いきなり現れいきなり宣言をしたくせに無茶苦茶だ!
恨めしそうに豪蓮(くおれん)を睨むワタルに、療杏(りゃおあん)は「まあまあ」と宥める。