ラベンダーと星空の約束
 


「そのまま飲んだら勿体ないよ。
良いもの持って来るから少しだけ待っていて?」




「少しだけ待っていて…」

そう言っても、心臓病を持つ流星は、走ることが出来ない。



200m先にある、うちの隣の滞在先ペンションから、

たっぷり15分掛けて、ガラスのコップ2つ持ち戻って来た。



「はぁー…疲れた」



白樺の幹に背をもたれ、
深呼吸を繰り返す彼の唇は、ラベンダー色になっている。



「流星大丈夫?顔色悪いよ?
コップが必要なら、言ってくれたら良かったのに」



「大丈夫だよ。大分楽になってきた。

どうしてもこれを使いたかったんだ。この形のグラスが最適なんだよ」



流星が私に渡したのは、
下から上に幅が広くなっている薄い硝子のグラス。



普通のグラスだけど…?
不思議そうにそれを見る。

流星は私の手の中のグラスに、ラベンダー色のサイダーをゆっくりと注いでくれた。



自分のグラスにも注ぎ終えると、それを耳に当て目を閉じ、じっとしている。



「流星…?何してるの?」



「紫も同じ様にやってみてよ。
とても気持ちいい音色が聴こえるから」




真似した私の耳に入ってきたのは、夏の暑さを忘れる涼やかな音色。



 シュワシュワ…

 プチプチ…ピチピチ…

 ティン…ティン…ティン……




「いい音色だろ?
沢山の気泡が弾けて、グラスに当たる音が綺麗だと思わない?

僕はこの音が聴きたくて、
面倒でも炭酸飲料はグラスに注いで飲むんだ」



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