ラベンダーと星空の約束
一歩前へ

 



 ◇◇◇


1月末日、退院の日、
東京にも雪が降った。



朝病室のカーテンを開けに来た看護師さんに

「外を見てごらん」と言われ、窓に目を向けると、

曇り空からハラハラと雪が舞い降りて、病院前の道路は白く染められていた。



ベットと椅子と床頭台に掴まりながら窓際まで移動し、

暫く振りに目にする雪に心を奪われていた。



昨日大樹からきたバカ丸出しな内容のメールには、樹氷の画像が添付されていた。



雪に覆われ、銀世界となったフラノの広大な農地に

ポツンと立つ、樹氷となった柏の大木。



大きく広げた枝の隅々に厚く氷雪を纏い、

今年も見事な雪のモンスターに変身している。



登校途中に写したらしく、
朝日をバックに逆光の中、堂々たる姿で立ち尽くしている柏の樹氷は美しかった。



大樹にしては上手く撮影出来ている。



『まあまあの腕前だね』

と返信すると、


『素直に褒めろ。可愛くねー』

と文句が返ってきた。




去年の今頃、まだ中学生だった私は、大樹と青空と3人でこの樹氷を見ていた。



あれは高校の合格発表の朝の事。



特待生の一枠で合格できるか、ドキドキハラハラしながら、この樹氷を見ていたんだ。



あの時はまだ流星と再会してもいないし、大樹の気持ちも知らなかった。



あれから一年……
随分と色んな事があった。



5年前のあの夏に匹敵するくらい、密度の濃い一年だったと思う。



こんなに濃い一年は、これから先の長い人生でも、二度とないんじゃないだろうか。



沢山涙を流し人の温かさに触れ、最後は最高の笑顔で大切な人達と笑っていた。



突然負った障害に憐れむ人もいるけれど、
今の私は間違いなく幸せだ。




朝食が配膳された時には、窓の外の雪は止んでいた。



白く綺麗だった道路も、行き交う通勤の人々や車の往来により、

すぐにアスファルト色に戻されてしまった。



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