ラベンダーと星空の約束
 


Tシャツジャージ姿の流星も珍しくて、見入ってしまう。



流星の手術跡は、喉仏の少し下から始まっている。

襟のない服は傷跡が見えてしまうから、TシャツやVネックの服装は見たことがない。



いつもYシャツタイプの服を好み、夏でも外出時には、一番上までボタンを留めている。



そんな流星が、今こうやって、みんなの前でTシャツを着ていると言うことは、

手術跡を隠す気が無くなったと言うこと。

質問されたら、事実をそのまま話す気になったのだろう。



流星の中で、心臓移植は正しく消化され、揺るぎない心で向かい合えている。



そう思うとまた嬉しくて、私の心臓もトクトクと軽やかなリズムを奏でていた。




試合は対戦相手のサーブから始まるみたい。



あっ…あの人…

相手の人には見覚えがあった。



数ヶ月前に「好きだから」と告白してくれて、

私が「ありがとう」と答えた、同学年の男子だ。



2つ隣のクラスで、名前は確か…

田川?田沢?何か違う…そうだ、田島君だ!



田島君のテニスの腕前は知らないけど、やけに気合いの入った顔をしている。



周りのギャラリー達は、圧倒的に流星を応援しに来た女子ばかりだし、

気合いを満タンにしておかないと押し潰されちゃうよね。可哀相に…




田島君のサーブは威力があった。



流星が何とか拾い、暫くラリーが続く。

そして最初のポイントを、田島君に取られた。




田島君のテニスはパワーテニス。


フォームは変だし無駄も多いけど、力でぐいぐい押してポイントを取るタイプみたい。




流星のテニスは田島君とは真逆。

そのフォームは綺麗で、教科書通りのお手本みたい。



下手なんかじゃない。

フォームで採点する体育の授業なら、いい点数を貰えそう。



でも、優雅にラリーを続けるのが目的ならいいけど、試合には向かない。



もっと駆け引きしたり、相手の虚を突かないとポイントは取れないよ。



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