ラベンダーと星空の約束
◇◇
「あん時のあいつは、命の期限を、いつかお前に話す気でいたんだ。
けど言えなくなったんだろ。
お前が泣くのが怖いからって、怖がらせんのが嫌だからって、あいつは言わずに逃げやがったんだ。
いいか、勘違いすんなよ。
弱かったのは紫じゃねぇ、あのクソバカ野郎……――――――――――――――――――――――――――」
大樹は真剣にまだ何かを語っていたけど、
私の頭はキャパオーバーで、それ以上の言葉は入らなかった。
大樹が教えてくれた夏休みの二人の会話。
私には打ち明けてくれなかった流星の言葉達が、頭の中を駆け巡る。
『心臓に綻びが……
俺の命には期限がある……
彼女の未来に俺は居ない……』
「大樹…」
「何だ?」
「流星は…死んじゃうの?」
「ああ…… けど、今すぐじゃねーぞ、十数年後って言ってた。」
十数年後に…流星の心臓は……
止まる………
衝撃の言葉に、私の心臓が壊れそうなほど強く収縮し、痛みに呻いて顔をしかめた。
息を止め、震える左手を心臓の位置に当てる。
痛みと共に目の前が霞み、頭の中に浮かび上がったのは、一つのイメージ映像。
それは私の感性が作り上げた、流星の命を象徴する様な映像だった……
――――……
富良野の夏の夜、満天の星空の下。
青色のライトに照らされ、ぼんやりと浮かび上がる紫色の花の海。
その波間に漂うのは一人の綺麗な少年。
白い肌、絹糸の様な焦げ茶色の髪の毛、
優しさを湛えた温かい茶色の瞳、
右頬には可愛らしい笑窪。
精緻なガラス細工の様に繊細な美しさを放つ少年が、一人ラベンダー畑の中で星空を見上げていた。
この少年は…あの夏の流星……
少年を外界から見つめていた私は瞬きをする。
ゆっくりと遅い瞬きの後に目を開くと、不思議なことに、その少年は青年へと成長していた。
優しさと繊細な美しさはそのままに、少年の時には無かった物を彼は持っている。
それは傷跡。
青年は大きな傷跡を胸に抱え、ラベンダー畑に佇んでいた。
大きな傷跡は、彼にとって大切な傷跡。
生と死について悩み苦しみ、やっと掴んだ温かな想いが、その傷跡の中に大切にしまわれている。