落雁


「本気で僕に勝とうとしてたの?」
「あたりまえじゃん。何そのうぬぼれ発言」

司はにやにやしたままだ。
だけど、すぐに真面目な顔に戻った。


「今日で決心ついたかな」
「は?なんのこと?ちょっと意味が分からない」
「それにしても、弥刀ちゃんってほんと強いね。普通に痛いし」
「ねぇちょっと、はぐらかすなよ」

手をついて、起き上がろうとした。もう十分、頭は正常になったはずだ。


「僕のことは、辰巳さんに聞くといいよ」

司の声を脳味噌で理解しようとしたら、先に体が悲鳴をあげた。

「うっ」

右肩に激痛が走った。

右手をついて起こそうとしていた体はバランスを崩して、寝転がっていた司の膝に戻った。

司も不思議そうな顔をしている。

「どうしたの?」
「…うでが」

自分でもびっくりした。
だって、今の今まで自分が怪我をしていたことを、忘れていたんだから。

「あー、ね。そういえば弥刀ちゃんが怪我してるの、忘れてた」
「あたしもだ」

反対側の手をつく。
やっとのことで体を起こす事ができた。

ずきずきと熱を持っているような痛み。
どんどん広がっていくみたいだった。

こんな痛みは、感じたことがない。

一瞬焦りを感じた。


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