落雁

そいつを知る




□ □ □



寒かった。
布団から飛び出ている顔と、髪がしっかり冷えていて、あたしは思わず布団にもぐった。
冷えた髪が首にさわり、さらに身震いする。

「…」

布団の中で究極に縮こまり、そして確信する。
せっかくの休日、もう少しだけ寝たいけど。

「…寒すぎて寝れない」

布団から出て、時間を確認した。

参ったな。本格的に冬だ。そろそろ暖房をつける時期かな。
さすがに寝巻きに畳、襖、布団1枚じゃ無理があるな。外同然の寒さだ。

あたしは急いで引き出しから服を取り出して、動きやすさ重視、薄い事極まりない寝巻きを脱いだ。
冷気が身に沁みる。これだから、冬は嫌いなんだ。

服を脱いだついでに、肩にはりついている、温くなってしまった湿布をはがす。
新しい湿布を取り出して、体を捻って肩に貼った。

「つめたっ」

肩から伝わる強烈な冷たさが、全身の鳥肌をふるい立たせる。

湿布を貼り終えて、あたしは服を着た。


少しの動作でも、ずきりと肩が痛む。
具体的にどこが痛いのか分からないが、右手全体が軋むように痛いのだ。
これは参ったなぁ。こんなに悪化するとは。

腕を上げただけで、とんでもない痛みに苛まれるとは思っていなかった。
先日、司と派手にやりあったせいだ。


帰った後、かなり甚三に怒られたなぁ。

司もあたしも顔には血が滲んでたし、それも生温い傷じゃない。
人が殴って、骨がぶつかって鬱血した痕や、弾みで切れた唇の端とか、それはもう手馴れた甚三が見たら一目で殴り合いだとばれた。

あたしは女としてどうなのかと言われ、司も女を殴るなんて男としてどうだ、と2人して怒られた。

もうしないと2人で適当なことを言ってその場を凌いだけど、あたしはまだ司とやり足りない。

今度は体が絶好調の時に、司と相手したい。
なんてことをうっかり滑らせてでもしまったら、甚三の拳骨が飛んでくるだろう。


< 120 / 259 >

この作品をシェア

pagetop