落雁

僕は今日の事をゆっくりゆっくり思い出してみた。
寝ぼけた脳味噌がだんだん回ってくる。

「…殴られたところは平気なの」
「今更怪我の1つ2つ増えたって、変わんないよ」
「本当無茶するよね」

弥刀ちゃんらしい、強気な発言だ。
普通の、いや、たちの悪い女の子だったら慰謝料を請求してきてもおかしくないのに。

「…無茶してんのはどっちだよ」

消えそうな声だった。
僕は思わず、聞き返しそうになる。
だけど、数秒後にその言葉の意味を理解した。

「…確かにお前は強いかもしれないけど、危険すぎる」

弥刀ちゃんはいきなり核心に触れてきた。


「もっと自分を大切にしろ」


その言葉を聞いた時、頭が真っ白になった。

自分を大切にしろ?

僕は今まで僕を大切にしていなかったのか?
そんなつもりは無かった。
ただ、弥刀ちゃんにはそう見えるらしい。

僕の心配をしている。

『俺はお前が心配なんだよ』

不意に、辰巳さんの声が聞こえた気がした。


違う違うと思っていたけど、やっぱり弥刀ちゃんは辰巳さんの娘だ。

肝が据わっていて、自分よりも相手を心配する。どんなときでも、思いやる。怒る時は怒る。笑うときは笑う。


僕は思わず彼女を抱きしめた。
こんどは、痛がらないようになるべく優しく。

「…本当に弥刀ちゃんは弥刀ちゃんだよね」
「は?」

きっと、弥刀ちゃんは知りたがっている。
ただ、言い出せないだけ。

だけど。

弥刀ちゃんになら話してもいいかも。

「…僕の話を聞いてくれないかな」


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