落雁

どきりとした。
そんなこと考えたこともなかった。

そういえばそうだ。
司は一応モテるみたいだし、遊んでいないわけでもなさそうだ。
だけど、彼女がいるとかは聞いたことがない。

「まぁ、あたしは大串先輩がお気に入りかな」
「でた、ラグビー部のマッチョ」
「あれくらいの筋肉ないとー」

りんご飴の甘さが口いっぱいに広がる。

ふと隣を見てみると、3人とも口が真っ赤だ。
原因はもちろん、りんご飴。

「うわ、顔ひどい」
「真っ赤だね」

お互いの顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
舌も赤くなっている。

「あ、そろそろ13時になるよ」
「えぇ?早いー、」
「うちカレー入りそうにないんだけど」
「あたしもあたしも」

自由時間が終わる。
これから食堂でカレーを食べて、古道散策をして終わりだ。

「あ、待ってー、食堂行く前に、トイレ行かせて」

芽瑠が立ち止まって、トイレを指差す。

「いってらっしゃーい」
「ここで待ってるねー」

芽瑠が駆け足でトイレに走った。

周りを見渡すと、うちの生徒はぞろぞろと食堂に向かっていっている。

「絶対みんなここで食べまくってるから、カレーとか入らないよね」

アミちゃんは笑ってそう言った。

「でも食べれるような気もする」
「弥刀ちゃんは大食いそうだもん~」
「いや、芽瑠には負けるけど」
「たしかに」

3人で頷いている所だった。

細い悲鳴が聞こえたような気がした。

「今の」
「え?」

3人の中で、あたしだけが顔をあげた。
アミちゃんとマナちゃんは気付いていないようだった。

あたしは周りを見渡してみる。
どこもおかしな様子はない。

悲鳴が聞こえたのは気のせいだったのかもしれない。
だけど、気になる。あれはきっと、芽瑠の声だったような気がした。

「どうしたの弥刀ちゃん?何かあったの?」
「いや…、芽瑠の声がしたような気がして…。ちょっと見てくる」
「芽瑠ちゃんの声?聞こえた?」

マナちゃんはアミちゃんに聞く。だけど2人は首を傾げるだけだった。
同じ場所に居た2人が知らないと言うなら、ますます信憑性は薄くなっていく。
とにかく、あたしは芽瑠の入ったトイレに向かった。

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