落雁




数十分くらい走っただろうか。
車は止まった。

ずっと車の角を掴んでいた指が、寒さで千切れそうだった。
指だけじゃなく、全身。
だけど、落ちなかった。何回も飛ばされそうになったけど、持ちこたえたぞ。

車が止まったのは、ぼろぼろの空き家の前だった。
周りは何も無い。
あるのは辺り一面の田んぼくらいだ。

ドアが開く音がする。あたしは慌ててルーフの上で小さくなった。
できるだけ、見えないように。

「さっさと立てよ!」

若い男の声。
車内から出てきたのは、男2人に支えられた芽瑠だった。
千鳥足で、男に着いて行っている。

次いで、あと2人の男が出てきた。

そいつらを良く見る。

少年だ。
明るい茶髪の奴もいるし、顔からしてみるとまだ大人とはいえない。
あたしとそんなに変わらないだろう。

不良?
ただの不良が、なんで誘拐?

ルーフから見えるとまずいと思って、あたしはフロント側に移動した。
一体ここはどこなんだ。周りは本当に何も無い。

そこであたしは携帯のある機能について思い出した。
そういえばこの間、甚三が『お嬢はすぐに誘拐されるからいけねぇ』とか言って、新しい機能を追加してたような。たしか。

あたしは携帯を開く。
まだ追加して間もないそれは、手前にあった。

「GPS…」

きた。
甚三、これはよくやった。
これさえあれば、あたしの居場所が分かる。
GPSをONにした。

そして、あたしは携帯をしまって車から飛び降りる。

車には少年が4人。だけど、この空き家に誰が何人いるかなんて分からない。
男数人に勝てる自信はあまりない。できれば避けたいルートだ。

あたしは考えて、その空き家の裏口を探した。

雑草がぼうぼうに生えていて、むき出しの膝を掠めて痒い。
冬だってのに、雑草は枯れてもなおそこに直立しているからすごい。

空き家の周りを調べてみて、裏口は無かったが、窓は見つかった。
ゆっくりと中を除いて見た。

芽瑠の姿は無いが、煙草を吸っている少年は見れた。
この場合、もはや正面から行った方が早い気がする。
ここの窓から侵入したって、ばれるのは免れない。
あたしはもう1度、正面に回った。

< 170 / 259 >

この作品をシェア

pagetop