落雁
心拍数が急上昇する。
どうする。ここで甚三が来るのを待つか。
いやだけど、そうしている間に芽瑠が殺されでもしたら?
あの少年たちが、何をするかは分からない。
何を目的で、芽瑠を連れ去ったのかも分からない。
無い脳みそを振り絞って、なんとかたくさん転がっていた鉄パイプを1本手にしたのはよかったと思う。あたしの脳みそ、よくやった。
手ぶらで男共の中に入るなんて自殺行為だ。
あたしその玄関のドアを開けた。
たどり着いた答えは結局これだ。結局、あたしはじっとはしてられない。
なるべく音を立てず、気付かれないように、その空き家の中に忍び込んだ。
部屋の中は外と同じくらいの寒さだ。暖房は無いらしい。どうやら、本当にただの空き家に乗り込んだみたいだな。
手にはしっかりと冷たい鉄パイプを握って、ローファーのまま部屋の廊下を歩く。
歩を進めていると、あの男たちの声が聞こえた。
「こんだけの上玉だったら、シンヤさんも何も言わねーだろ」
「まさか、あんな田舎にこんなのがいるとはな」
声からして、男達が居る部屋が分かった。
そこの部屋のドアにぴたりと張り付く。
どうやら和風のつくりらしく、見慣れた襖だ。引き戸なら、慣れたもんだ。音も少ない。
あたしは呼吸を整えて、襖に手を掛けた。
そして、ゆっくりと、なるべく穏やかに襖を引く。
居た。
その部屋に、少年が3人居る。どこかの不良といったような輩だ。
3人は背を向けているので、あたしに気付いていない。
しかし、いつ振り向くか分かったもんじゃない。これは、今のうちに手を打っておかないと。
あたしは静かに両足で踏み込んだ。
古いつくりなのか、床板はみちりと嫌な音を立てる。
そして、1人の少年の背中を両足で思い切り蹴り上げた。
「?!」
そいつはあっけなくバランスを崩して地面に崩れ落ちた。
それと同時に、残り2人が振り向く。
「あー!!お前は!!」
あたしの顔を見るなり、茶髪が驚いたように声をあげる。
蹴り倒したやつが起き上がる前に、この2人をなんとかしなくては。
あたしはすぐに、鉄パイプを男の鳩尾に入れた。
同時に襲い掛かってくるもう1人の男には、なんとかパンチで答えた。
順番だというように、最初に蹴り倒した男があたしの髪を掴む。
「いてててて、ハゲる、ハゲる」
後ろが見えなくて、矢継ぎ早に鉄パイプを振り回した。
それが丁度当ったのか、掴まれた髪が離される。