落雁
居間のような部屋で、あたしと似たような格好で、芽瑠はうずくまっていた。
どきりとした。
心臓が嫌に早く脈打つ。
「お嬢!!」
「弥刀ちゃん!」
そこには甚三が居た。
2人の男が倒れている。
「芽瑠!!大丈夫だった?怪我は?!」
「大丈夫!…このひとが、たすけてくれて…」
その言葉を聞いた瞬間、脱力した。全身の力という力が抜ける。
「よ、かった…」
倒れている男は起きそうにないし、もちろん甚三も無傷そうだ。
芽瑠は控えめに甚三を見た。
甚三は目のやり場がないといった風だ。
「弥刀ちゃんこそ、大丈夫なの?さっき銃みたいな音がきこえて…」
そしてあたしははっとした。
小指の爪を見る。
「あ、よかったあった」
若干血が滲んでいるものの、剥がれてはいない。
「お嬢、爪剥がされたんですか?!」
「剥がされてないよ、ちゃんとついてる」
「爪もそうだけど、弥刀ちゃん銃の音がしたんだよ?!」
そこではっと気付く。
スカート履いてないじゃん。
あたしは恐る恐る後ろの四畳半を振り返った。
司が黒いリボンと制服のスカートを持ったまま突っ立っている。
一気に顔が熱くなった。
「今更なんで赤くなってるの」
司はいつもみたいに笑いながら、スカートをあたしに渡した。
「お、おまっ…芽瑠もいるんだぞ!!」
「芽瑠は別にいいよー??ねー」
「ねー」
「“ねー”じゃねぇよ!!いつの間にそんな仲良くなってんだよ!!第一、何で司がいるんだ?!」
「甚三に乗せてもらったんだよ」
司からスカートを受け取ると、司は部屋からいなくなった。
いつの間にか甚三も居なくなっていた。
「…弥刀ちゃん、ひどい傷」
芽瑠はあたしの顔をやさしく触った。
その柔らかい指に傷がないことに、あたしは安心する。
「慣れてるよ、こんなもん」
あたしは笑って答えたけど、芽瑠は笑わなかった。
「私のせいだ、ごめん、弥刀ちゃん…。あたしのせいで、こんな怪我して」
「芽瑠はなんもしてないって。あたしが勝手に、好きでやっただけ。芽瑠があんなに危険だったのに、助けないことなんてできない。知ってるでしょ?」
あたしはスカートを履いた。
ところどころしわになっていたけど、気にならない。
「あたしに助けを求めてくれて、ありがとう。頼ってくれたみたいで、うれしかったよ。あたし的には」
言い終わらないうちに、芽瑠が抱きついてきた。
顔は見えない。
「ほんと、危なすぎるよ、弥刀ちゃん…」
その声は震えていた。泣いているんだと気付いた。
「よーしよし、怖かったねー」
ぽんぽんと頭をなでると、芽瑠は涙目であたしを睨んだ。
「もう、こんな危ないことしないでね!!!怒る!」
「わかったわかった、もうしないって」
笑って言うと、今度は笑ってくれた。
「たぶん外で甚三たちが待ってるから、早く行こう」
「うんー」
開けっ放しだった窓から外に出る。
正面に回ると、いつものベンツが止まってて、運転席の甚三と目があった。
「お嬢、早く乗ってください。警察来てます。多分学校側が連絡したんでしょう。説明するの面倒なんで、早く行きましょう」
「あー、そうだな。面倒だ。…だけど、ここを無人にしとくのも変だろ」
甚三は考え込んだ。
そして、司が手を上げる。