落雁

とめられない











□ □ □



日曜日。
その日の朝、あたしは近所のスーパーとくまるで不吉な予兆を感じた。

本日特価のタマゴLサイズをカゴに入れたときのこと。

「あ」
「あ」

同じくLサイズのタマゴをカゴに入れた、金髪と目が合ってしまった。
この金髪は知っている。

「「おまえ…」」

お互いに顔を指差し、それ以外の言葉は出てこなかった。

「司の女」
「司の親友」

そいつは、レイジと呼ばれる男だった。
司との付き合いが長く、割と司を理解しているほうの人間。

「なんであんたがスーパーなんかに…」
「来ちゃ悪いかよ。タマゴ安いんだよ、今日は。何で毎回お前と会うんだよ…」
「知ってるわ。あたしもタマゴ目当てだ。あとな、それはこっちの台詞だ。その目立つ金髪やめろ」
「タマゴ、もう少しで売り切れるところだったな」
「そうだな。危なかった」

高齢化が進んでいるスーパーとくまるのタマゴ売り場で、若者2人が突っ立っている。
異様だ。

「…お前、京極の1人娘だったのかよ」
「そうだけど」
「俺らのところは潰しにくんじゃねぇぞ。拉致って悪かった」
「お前…権力に屈するタイプだったか…。大丈夫。あんたんとこは小さすぎて眼中にない。だけど薬はやめろ」
「ウィッス」
「じゃあ。また今度。」
「おお」

あたしはそいつに背を向けた。
あいつに会うと、毎回ろくなことがない。今日は1日平凡に過ごしたい。

「おう、俺」

後ろで金髪が電話をしているようだった。なんとなく耳に入ってくる程度だ。

あたしはタマゴ売り場近くの小麦粉を見ている。
今日はクッキーを焼くつもりだ。

「え、つかさ? …あっ」

その単語に、あたしは振り向いてしまう。
金髪と目が合った。そいつは慌ててあたしから去っていった。

予想的中。
悪い予感しかしないってのは、やっぱり間違ってなかった。

「おいコラまてクソ金髪!!!その電話貸せ」
「アホ、やめんか田舎女!!」

朝は人が少ない精肉売り場で金髪の携帯をひったくる。
電話の相手は続けて話をしていた。

『え?何騒いでんすかレイジさん、こんな緊急時に呑気に買い物してないでくださいよ。だから、早く司さん止めないと、ヤバいっすってこれ。火緋はヤバイっすって』

電話を切って、携帯を金髪に投げた。

「おい金髪、どういうことだ」
「…お前と会うとろくなことがねぇ…」
「あたしの台詞だ」
「田舎女、着いてくるならタマゴは諦めろ」

溜め息をつきながら、金髪はタマゴを戻した。

< 212 / 259 >

この作品をシェア

pagetop