落雁

ふと、芽瑠が誘拐された時のことを思い出した。

たしか、携帯が役に立ったな。

あたしはジャージのズボンポケットに携帯が入っていたことを思い出した。
指で触ると、あれ、知ってる感触じゃない。

…明らかにどこか割れている。

事故の衝撃であろう、頼みの綱がバッキバキである…。


「京極サン」

そうこうしていると、車が停止した。

「…おいおいおいおい…、」


フロントガラスから外を見ると、あたしはすぐにそこが分かった。

「ねぇ、分かった。あれか、猿の組織か」
「は?」

運転手の男は車を降りて、後部座席の方のドアをあけた。

「降りるぞ」
「ちょっとまって、いだだだだ!!」

車からずるずると強引に引きずり下ろされて、担がれるようにしてそこに向かう。

ここは、1度来た事があった。

司が1人で乗り込んだ、ヒヒとかいう組織のご立派なマンションじゃないか。

あたしはこの誘拐の糸口が見て取れた。

司絡みか。

また、ため息が出た。まったく、ほんとにあいつはあたしにどれだけ怪我させるのだろうか。

「痛いって!!!」

エレベーターで3階までのぼり、1番階段から遠い部屋に入った。

この運転手にとってはあたしは荷物も同然らしい。
部屋に入るなり、あたしをフローリングに落としてそのままさっさと部屋から出ていった。

ガチャリ。鍵をかけられる音がした。

すぐに状況を確認したいところだけど、この体は言うことを聞かない。
あたしは降ろされたままの場所で部屋を一瞥した。

一般的なマンションの一室みたいだ。2LDKといったところだろうか。家具も何もなく、空き室の状態だ。
窓がある。カーテンはない。日の光が部屋を明るくしているみたいだ。

ほこりっぽくて、動くとフローリングを白くしている埃が体につく。まるであたしが雑巾になった気分だ。

考えないと、考えないと。
この状況から逃げられる策を、考えねば。

そう思っているのに、あたしの体は力が入らない。
熱い。全身擦りむいたみたいな、そんな熱さ。

瞼が重くなっていくのが分かる。
意識を離してはいけないのに、…


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