落雁

辰巳という男




■ ■ ■



夕飯の支度をしていた所、誰もいないただっ広い1階に電話が鳴り響く。

この家の電話が鳴るとは珍しい。
いつだろうか、12代目が酔っ払ってイタズラ電話(おそらく弥刀嬢に構いたかった)をしてきた以来だろうか。

濡れた手を拭いて電話を取る。
滅多に使われていないのに埃が積もっていない所は、弥刀嬢の掃除の賜だ。

しかし、いい予感はしない。

無言で受話器を耳に当てる。

俺の勘は外れなかった。


『京極さんチですかぁ?いまちょっと、ウチにキレーな女の子がいるんですよぉ』


京極家の電話が鳴るのは2種類しかない。
当主が酔っ払っているか、弥刀嬢が誘拐された時だ。

『聞いてますぅ?俺らが言いたいのは、司を出せってことなんですよね』

そこで、電話を切る。

俺の体温は怒りによって上昇したであろう。
今すぐ2階に上がり、連続徹夜明けで寝ている司をぶん殴りたい所であったが、丁度姐さんと当主が玄関の戸を開ける。

すぐに当主に旨を伝えると、俺の体温はひやりと下がる。

「………司ァ!!!!!!」

この馬鹿でかい家全体に恐ろしい声が響く。

当主は腹の底からそいつの名前を呼ぶと、すぐに階段をかけ下がる足音が聞こえた。

元から色白であるのに、寝不足のせいでさらに青白くなっている。いや、今は別の要因か。

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