落雁

「なに朝っぱらから任侠ごっこしてんだ!うるさくてたまらねぇ!!それとな、お前新人いびりすぎだっつの!ヨウイチもこの間ぶっ倒れたろ!」

鬼の形相をした辰巳。
おお、おっかねぇ。

って、そうじゃなくて。

「なんだよ!あたしは新人いびりしてるつもりなんかない!いつも暇そうにしてるのが、たまたま新人なだけだ!!!」
「とにかく、お前はうるせぇんだよ!!ご近所さんにも迷惑かかるだろうが!」
「やくざもんが“迷惑”言ったらおしまいだわ!」

へらへらとサブローが笑う。
鼻血を拭って、あたしと固い握手をした。

「サブロー…」
「次やるときは本気ですよ」

サブローが笑う。
いや、こいつ一瞬で倒れたのにな。

父とサブローは家の中に消えてしまった。

あぁ、今日は早いな。
誰かあたしの相手をしてくれる人は…


「亀ちゃん、付き合ってよ」
「えぇ、俺っすかぁ?嫌ですよぉ、サブだってやられてるし」

あたしが廊下のほうに目をつけると、角刈り頭の亀ちゃんが渋る。

「いいじゃん、ケチ」
「俺今日、辰巳兄貴の運転しなきゃなんで」
「…ふーん」

確かに、仮にあたしが亀ちゃんを気絶でもさせてしまったら、怒られるのは亀ちゃんの方だ。

今日は諦めるかぁ。
明日の朝は、しっかりサブローにやってもらおう。


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