今昔狐物語


 廊下には蛍の心配をして歩き回る夕霧がいた。

「蛍!どこ行ってたのさ!もうじき旦那がくる時間だよ」

「はい…」

「ん?どうした?顔色が悪いね。目も赤いし…」

すぐれない表情の顔を覗き込まれ、蛍は慌てて笑顔を作った。

「だ、大丈夫です。ちょっと、化粧を直してきま――っ!!」

右腕を持ち上げられた。

ズキンとした痛みが身体に走る。

「なんだい?このぐるぐる巻きの右手は」

「えっ……と…」

不自然に泳ぐ目。

それだけで勘のいい夕霧は気がついた。

「あんた、まさか…!」

布が解かれる。

「っ!?」

夕霧は目を見張った。

まさかとは思ったが、予想外でいてほしかった。


「………馬鹿な子だね」


中途半端になくなった血塗れの小指を見つめながら、夕霧は震えた。

その瞳には涙がにじんでいる。

「ほんと……馬鹿な子だよ…。こんなことして……痛かったろ…?」

優しく両の手で、蛍の右手を包み込む。

「よく頑張ったね。そんなに、好きなのかい?」

指切りの意味を知る彼女には、蛍に相手がいることなどお見通しで。

蛍は少し恥じらった後、しっかり肯定した。

「…はいっ」

「ふふ、いい返事だね。おいで。ちゃんと手当てしないと」

先を歩き出す夕霧の後を追う蛍。


(水真馳…待っててね。私、頑張るから。奉公を終えて、最高の女になって、絶対貴方に会いに行くから――)






 数年後、夕霧が例の商家の旦那に身請けされた。

そして、蛍が次の花魁となったのである。



 
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