今昔狐物語
なぜだか、今までの中で一番心に響いた「愛しい」だった。
知らず頬が熱くなるちよ。
そんな彼女に穏やかな眼差しを送りながら、飛牙は徐に口を開いた。
「ちよ、覚えているか?お前は少し前に狐を一匹、人間の罠から逃がしてやったろう?」
「え?あ…そういえば…」
今から数ヶ月前のこと。
森で遊んでいた時、ちよは狩り用の罠にかかっていた小さな狐を発見した。
一匹の茶色い子狐。
親とはぐれて罠にかかってしまったのだろうか。
「普通の人間ならば、獲物がかかったなら喜んで捕らえる。しかし…お前は違った」
ちよは「かわいそう」と言って獲物を逃がしたのだ。
これは子供ゆえの行動かもしれない。
けれど、それでも、飛牙はこの行為を好ましく思った。
そして、ちよに興味を持った。