今昔狐物語

「きゃ!ちょっ、飛牙!?傷は大丈夫なの!?」

「大事ない。ひどく痛みはするが、ちよが俺を愛する限り、俺は死なぬ」


誰かに愛されること。

それは自分の心を、魂を生かす。


「愛の力で傷など直ぐに塞がるさ」

「は、恥ずかしいこと言わないで!」


腕の中で赤くなるちよが可愛らしくて、彼はククッと笑った。


「さあ、最終確認だ。ちよ、俺の嫁になれ」


抱き上げられたまま、甘い命令が下される。


「はい…!」


この意思の固い返事を聞いて、ちよの父親が慌てたのは言うまでもない。

「ちよ!!やめなさい!ちよ!!」

「すまないな、父上。ちよは俺がもらいうける」


得意げに言う飛牙に抱き着きながら、ちよは父親に謝った。

「ごめんなさい、お父さん」

「ちよ!?お前…本気で、狐と…?」

「お元気で…」



親との別れに涙目なるちよをしっかり抱きしめ、飛牙はその場からフッと消えた。




こうして少女は狐の嫁となり、愛し愛される未来を得たのだった。



 
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