約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く



「花桜、顔をあげて涙を拭きなさい。

 私は私が成すべきことをその一瞬一瞬にしただけですよ。
 それを評価するのは私自身ではありません。

 町の人や、花桜、そして私に関わった人々。
 そして後の世の人の価値観なのかも知れません。

 ただ一つ、言えることは必死なのですよ。

 時代を変革させようとする力はとてつもなく大きくて強い濁流。

 上に立つのも大変なのですよ。
 だから彼らも道を謝る。

 それを諌めるのにもまた相当の力が必要なのです。

 花桜が気に病むようなことは何もありません。
 さぁ、夕餉の続きを頂きましょう。
 せっかくの夕餉が冷めてしまいますよ」



そう言うと、夕餉の続きを食べ始めた。


私も慌てて、焼き魚と漬物を頬張ってお茶を一気に流し込むと、
胸の前で両手をあわせて「ごちそうさまでした」っと声に出す。




「山南さん、後片付けをした後も少しお稽古して貰えますか?」

「構いませんよ。
 今日は私ももう少し体を動かしたい気分ですから」

「有難うございます。
 じゃ、またお寺の境内で」


二人分の食器を重ねて、慌ただしく山南さんの部屋を出ると
炊事場での洗い物を終えて、お寺の境内へと向かった。


月明かりの下、流れるような切っ先で
一連の型を振るい続ける山南さん。


そんな綺麗な剣さばきに見惚れてしまう。


実践が出来ないっていいながら、
今も彼はこんなに美しく剣を振るう。



「山南さん、遅くなりました。
 お願いします」



わざと大きな声で告げて彼と対峙するように、
木刀の切っ先を彼へと向ける。



「行きますっ」


声を出して、何度も何度も打ち込む私の剣を
山南さんは何度も何度も受け止めながら、
確実に私の弱点を教えてくれる。


何度も何度も打ち込んで、息があがるようになっても、
山南さんは息一つ乱していない。


「今日は終わりにしましょう。

 明日に痛みを残さないように、
 ちゃんと冷やして沖影とともに私の部屋へ後で来なさい」


言われるままにお辞儀をして、
井戸水を組んで、手拭いでアイシング。


固くなったマメを指先でなぞる。

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