約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く

「山崎さんは本当に花桜が好きなんですねー」


思わずそうやって切り返すと山崎さんは、「守ってやりたいんや」っと
照れくさそうに教えてくれた。

その日、山崎さんがお世話になっていた宿の人に話を付けてくれて、
通いで働かせてもらう形になり、私は山崎さんが暮らしている長屋へと住処を移すことになった。



「岩倉、暫くの間はオレの傍で我慢してな。
 はよー、沖田さんの傍帰りたいやろうけど、後少ししたら大坂の商人の船がここに来ることになってる」



山崎さんの言葉を信じながら私は一つ屋根の下、山崎さんとの奇妙な仮夫婦生活を演じていた。




長屋から仕事場まで、いつものように歩いていると桜吹雪が目に留まる。


そんな桜の木の下へと近づいて、ゆっくりと桜の幹へと指先を触れる。
そして花びらを一枚、手のひらへと掬い取った。




それをそのまま懐紙に包んで胸元の着物のあわさへと片づけると、
仕事場へと急いだ。


女将さんに声をかけて暫くの間働かせてもらった後、
私は再び長屋へと戻る。



長屋に辿り着いた私は、晩御飯の支度を始めて行く。

その日、山崎さんの帰りはいつもより遅かった。




食卓に晩御飯の支度をして壁にも持たれるように腰かけたまま、
匂い袋をとって、クンクンとかいでみる。


総司がくれた金平糖は、もう食べてしまって入っていた布袋だけが手元に残ってる。




……帰りたいなー……。


京が恋しくなりながら、ウトウトと眠りについていたみたいだった。




「岩倉、おそうなってしもたな。
 明日、大坂に向けて船が出る。

 京には先ぶれを出しといたさかい、大坂には誰かが迎えに来てくれるやろ」



帰ってきて早々、私に話を張り出した山崎さんはそのまま、
私が作った食事を食べるべく、食卓についた。


山崎さんの向かい側に座って、私も食事を終えると洗い物を片づけて布団へと入った。



翌朝、早々に支度をさせられると、長屋を早々に出て港へと向かった。
荷運びしている船の前、山崎さんが声をかけて私のことを頼んでくれているみたいだった。




「類さま、どうぞこちららに」


仮の名で私のことを呼ぶと、私はその声の方へと足を進めた。



「こちらが、先ほどお話ししました類さまです。
 大坂にいる思い人の元へとお送りいただきたく……」

「えぇ、構いませんよ。
 あかつきさんには、私どもも良くしてもらってますから。
 持ちつ持たれつですわ」



そう言って、船の持ち主は快く承諾してくれて私は乗船許可を貰った。

乗船間近、山崎さんから手渡されたのは新選組の副長宛への手紙と、
小さな木箱。
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