恋愛メンテナンス
「じゃあ、履歴書を見せて貰いながら、いくつか質問をさせて頂きます。お答え出来ない質問は、無理してお答え頂かなくて結構です。それで採用不採用の結果に直接関わる訳ではございませんので、ご安心下さい」

丁寧な日本語で、軽やかに話す。

私が履歴書を差し出すと、永田さんは黙って真剣に眺めていた。

目が合って、知り合いみたいに少しだけ笑ってやる。

ニマッ…( 笑 )

が、知らん顔してガン無視された。

その余所余所しさに、また変なところでキュンとする自分がいた。

「こういうお仕事の経験は、過去のアルバイトなどでもされた事はないんですか?」

履歴書を眺めて、口唇を触って質問される。

「はい」

「長い間、内務のお仕事をされてきてるけど、うちの今回の募集はいわゆる現場作業ですが、それを御承知で来られてますか?」

「はい」

「清掃業のメンテナンスって聞くと、思い描かれるのは、たいてい掃除のオバサンですが。美空さんにやって頂く内容は、それよりも少しだけ深い作業だと思い描いて頂きたいのですが、その辺りは大丈夫でしょうか?」

おまえ、全然プライベートと違うじゃないかぁ!

何だ、さっきからそのペラペラの日本語はぁ!

毒舌ヒーローじゃなかったのかぁ!!

「えっ?えぇ…はい」

「僕たちの仕事は、建物及びそのモノ事態の保守管理です。汚いモノは捨ててしまえば、見栄え良いですが。そうではなくて、醜く汚いモノを当初と同じ状態にキレイにして、見栄えをよくする極めて見てくれに左右される重要な仕事です」

永田さんは、相変わらず他人行儀で。

偉そうに副所長としての御託を並べて語る。

「建物管理会社から雇われた、清掃管理会社の者としての応対もしなくてはなりませんし。常に上にはたくさんの者たちがいると思いながら、保守として控えめで、尚且つ手際もよく丁寧に勤めなくてはなりません」

手際も悪いし、言い訳すりゃあO型だから丁寧ではない。

こだわりは、あるけど。

一生自由に生活するって。

結婚なんて、絶対にしない。

子どもの犠牲には、なりたくない。

そんな、仕事とは全く関係ないこだわり。

「衛生上、好ましくない場所へも行きますし、手荒れなど、寒さや暑さの変動もありますが、体調の方は平気ですか?」

「はい。私、目立たなくても人の影で一生懸命に働けるお仕事に付きたいと思ってまして。自分の望んだ事だけは、責任持ってやって行きたいですし。手荒れや寒さなんて、生きてくための中では、対した事ではないと思ってます! 身体は弱くはありません!」

まぁ、ちょっと精神面が弱いくらい。

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